写真:落合隆仁(グラン)
文:Lisa Okuma(リサオ)
取材協力:アジア取手カントリー倶楽部
なるほど操作はそんなに難しくないとしても、乗用カートに比べてキケンなのでは?いえ、それが逆なのです。カートの事故はたまに耳にするし、わたし自身カーブでぽーんと振り落とされた経験があります。問題はカートの遠心力、これが予想外に強烈。そもそもそのカタチから、車の運転と同じだと勘違いしやすいのが落とし穴。経験値が慢心となりキケンを呼ぶのです。
逆にセグウェイは、まったく経験値がない乗り物なのでみな慎重になる。転んだりするのも乗りこなせてきたなと油断したときです。何度もまわっているなかで、転んだひとを見たのは1度だけ。それも、小さな丘に無理な角度で突っ込んだ自業自得の出来事でした。なのでよっぽどのお調子者じゃない限り問題はありません。お調子者だと自覚していないお調子者は潜在的に危ないので要注意です。
では、どんなタイプのゴルファーに激しくおすすめか。それは、せっかちなひと。「あんたプレー早いねぇ」って一度でも言われたことのあるひとはすぐに予約したほうがいいです。じっと待つのがいやなひとには最適。なぜなら常に動いていられるから。待ち時間も同伴者のところまで移動したり、くるくる回っていればいいんです。
そう、同伴者。ついその存在を忘れがちで、気がついたらティーグラウンドとグリーン上でしか会わないなんてことになります。全員が個人主義者なら問題ありませんが、そうじゃない場合は気をつけないと同伴者に怒られる。打って乗って走って、ひゃー気持ちいいー、止まって降りてまた打って、をひとりで楽しんでると、会話もないし一緒に来てる意味がないと怒られる。怒られました。ごめんなさい。
そして、初心者にもメリットがあります。なぜなら普通のゴルフ場では、初心者はだいたい走っていて、息切れしたまま打つことになるから。そんな状態でよいショットが打てるはずもなく。
ところがセグウェイなら、移動が早くなるぶん、息を整える余裕ができる、ショットにかける時間も増やせる、ショットに集中しやすくなる。あと、スコアが悪くてもセグウェイが楽しいからゼツボーのどん底に堕ちることもない。
なにより、初心者のみならず、すべてのゴルファーにとっての最大のメリットは、フェアウェイ乗り入れ可の恩恵、使うクラブをボールのところまで行ってから決められるということ。しかもカートと違って急発進時にターフを削ることもないので、雨の日でも乗り入れができるのです。乗用カートだと、ボール地点で急にガードバンカーが気になったり、そもそも違う番手を持ってきてたり、クラブを替えたいと思うシーンは多々ある。カートに取りに戻るか、面倒だからそのまま適当に打つしかない。その手のイライラがなくなるのです。当然、進行も早くなります。
たとえば、ある平日、早めのスタートで、前半はスイスイ1時間半、後半は詰まったけどそれでも2時間半。メンバー全員が100ヤード以上飛ばせる腕前なら所要時間は乗用カートより圧倒的に短くなる計算(あんまり飛ばないと乗り降りの回数が増えて時間をとられてしまう)。その日は初心者や初級者も多い印象で、だとしたらじゅうぶん許容範囲内のプレー進行です。
平日ならスルーでそのまま行ける場合もあるので、かなりテンポよくプレーできます。たぶんゴルファーならみんな経験している、前半と後半の別人格問題も勃発しないに違いない、そう睨んでます。前半は神がかってたのに後半はボロボロ、ベストスコア更新は儚い夢、それは昼休みで集中が切れたせいか、昼ご飯で副交感神経優位になって眠くなったせいか、ただメンタルが弱いだけなのか。いずれにせよ、セグウェイならそこまでの別人格は出てこないように思います。乗る、走る、降りる、クラブを選ぶ、打つ、このルーティンがカッチリ決まってるおかげで。セグウェイがオンオフのスイッチになってくれるのではないかと思うのです。
こういった理由で個人的にかなり気に入っているので、わたし自身何度も来ているリピーター、そして勝手に営業部長です。こんなに楽しいものをみんなに教えないわけにはいかないのです。支配人の齊籐喜栄子氏いわく「一度セグウェイを体験すると、またその4名でおとずれるのではなく、それぞれが別の誰かを連れてくるケースがほとんどです。お客様がすすんで営業してくださるんです」。
また、講習を受けたひとには証明書「Segway Card」が発行される。そのカード、ちゃんとセグウェイのイラストも描いてあってなかなか格好いい。「お友達を連れてこられたお客様はみなさん見せびらかして威張っておられます(笑)」と支配人。
アジア取手カントリー倶楽部が素晴らしい理由、それはセグウェイを導入して終わり、ではなく、つねにホスピタリティやゴルファー心をくすぐる仕掛けを考えていること。
そういえばセグウェイ導入前、初めて訪れた10年前にもすごく居心地がいいなと感じたのです。ゴルフにハマって1年ちょいのひよっこで、たくさんラウンドしたかったので、27ホールもあるうえに、まわり放題、リーズナブルな料金設定のアジア取手CCは願ったり叶ったり。都会の練習場で漠然とボールを打ち続けて散財するよりよっぽどお得だし、より実践的な練習になるはず。たまたまその日は2名で行く予定で、当時まだ少なかった2サム可のゴルフ場だったことも決め手になりました。
まわり放題と2サム割増なし(*現在は割増の場合あり)。
そのふたつのアイデアを15年前に打ち出したのが、アジア取手カントリー倶楽部とアジア下館カントリー倶楽部を擁する株式会社アジアカントリークラブ代表取締役支配人の齊籐喜栄子氏。ちょうど大きな台風の被害を受けたばかりの大変な時期に支配人に就任したため、集客に結びつくシステムづくりが急務でした。もてなしの心遣いも細やかで、ハーフターンのときにスープとスナックを振る舞ってくれました。今ではお茶とお茶菓子。当時も今もほかのゴルフ場でこのようなサービスを受けたことはなく、だからこそ10年前の出来事なのに鮮明に覚えています。
「過当競争に巻き込まれたくないのです。立地や値段以外でなにか差別化しないと生き残れません」
既成概念にとらわれず、未知のことでも怖れず取り入れる。その進取の精神は親会社のオーナーの気質でもある。
セグウェイの生みの親、米国屈指の発明家であるディーン・ケーメンの使命は「世の中になくてはならないもの」を生み出すことだという。ならば、セグウェイを日本のゴルフ場で一番多く保有する亜細亜観光株式会社のそれはきっと「世の中にあったら楽しいもの」を提供することだろう。
そもそもセグウェイ導入のきっかけは、犬の散歩にセグウェイを使っていたオーナーの「こんな楽しいもの、なんでゴルフ場で使わないの?」という疑問だった。「オトナは楽しみが少ないから。これならオトナでもじゅうぶん楽しめる遊びになる」「セグウェイ自体が楽しければ、そんなにゴルフが好きじゃないひとも呼べるはず」
当時、すでにセグウェイを導入していたゴルフ場はあったが、多くても20台程度。さらに講習を受けるために前泊する必要があるなど敷居が高かった。また、ゴルフ場以外でも体験できる場所はあったが、手続きも面倒だし料金も高かった。
ならばなるべく多くのひとに楽しんでもらえるよう大量に導入しよう。値段も乗用カートとかけ離れないようにしよう、さらに独自の講習スタイルを編み出して、短時間で乗れるようにしよう。試行錯誤のすえ、現在の15分程度の講習が確立した。
「長々と説明しても聞いてもらえませんから。まずは実際に乗ってもらって、絶対にやってはいけないことを体験して学んでもらうんです」
準備万端整って、2012年にアジア下館CC、2013年にはアジア取手CCに、それぞれ100台のセグウェイを導入した。ずいぶんと思い切った初期投資に思えるが、実は20年前、日本で初の乗用カートスタイルを取り入れたのも亜細亜観光株式会社だった。そのときも100台ばーんと導入した。
当時の会員たちは、それでは運動にならない、割増料金が気に入らない、そもそも邪道だ!などと猛反対だったが、それがいまやカートが当たり前の時代。
常に攻めの姿勢で「なんであれ日本一だったら集客できる」が信念のオーナーにとってはそれほど難しい決断ではなかったかもしれない。
今後、セグウェイの台数を増やす予定。また、ゴルファー以外にゴルフ場を開放する取り組みも積極的にしている。すでに取手市に協力して開催したゴルフ場ウォーキングは大人気で、再開催の依頼も多い。「ゴルフ場を散歩するだけであんなに喜んでもらえるなら、セグウェイに乗ってもっと楽しんでほしい。ゴルフ場がどういうところなのか知ってほしい」と支配人。
さて、オーナーの次なる野望は「ゴルフ場にゴマちゃんがいたらいいよね。きっとみんな喜ぶよね」。実現性は神のみぞ知る。しかしその自由な発想、今後も目が離せません。