コースデザイナー川田太三氏が語る設計意図[鮎滝カントリークラブ(香川県)]

写真:落合隆仁(グラン)
文:小澤裕介
取材協力:鮎滝カントリークラブ

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「プレーしながらコースデザイナーの設計意図や設計哲学を理解できればゴルファーとして一人前」といわれるが、実際に設計者が何を考え、どう設計したのかを知ることは難しい。何十年も前に設計されたコースのデザイナーはすでに亡くなっている場合が多いし、それぞれのコースには設計者がどんなコンセプト、意図で設計したのかを確認する資料や文献がほとんど残されていない。つまり、今となっては残念ながら、“設計者の頭の中”を想像して答えを導き出すしか術がないケースが多いのだ。
そんな中、日本を代表する設計家・川田太三氏に話を聞く機会に恵まれた。設計者自身が語るコンセプトや設計哲学、裏話を知った上でコースを訪れる――。そんな贅沢なゴルフをしてみてはいかがだろう。

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まずは川田太三という人物について紹介しておこう。中日クラウンズでテレビ解説を務めていることから、ご存じの方も多いかもしれないが、実に興味深い経歴の持ち主だ。1944年東京都生まれの川田氏は、立教高卒業後にアメリカ・オハイオ大に野球留学。学生時代は大毎オリオンズ(当時)やドジャースから入団の誘いもあっただそうだ。ゴルフを始めたのは帰国後に立教大に進学してから。「野球をやっていたからすぐに勘をつかんだのかもしれません」と本人がいうように、瞬く間にシングルハンディを取得し、わずか3年弱で日本オープン(1967年)に出場するほどだった。仕事面では30歳で独立し、スポーツ関係の翻訳をスタート。1980年からは日本ゴルフ協会の各種委員を務めるほか、世界大会の団長、監督も歴任。『世界のベスト100コース』選定委員、日本ゴルフコース設計者協会の理事も務めている。設計家としてはこれまで22のコースを設計したほか、霞ヶ関CC西や千葉CC、狭山GCなど名門コースの改修も担当。現在はベトナムに23コース目を設計中だ。

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川田氏18番目の設計コースが香川県の鮎滝カントリークラブ。高松空港から車で10分ほどの距離にある鮎滝CCは、1996年に開場した。川田氏は成田GC(千葉県)やみずなみCC(岐阜県)、ヨネックスCC(新潟県)、森永高滝CC(千葉県)などトーナメント開催コースを設計しているが、鮎滝CCもマンシングウェアオープンKSBカップ(2002年)、ジャストシステムKSBオープン(1998年)を行ったトーナメントコースだ。
こちらの名物ホールのひとつが5番パー4。グリーンが竹林に囲まれた景観の美しいホールだ。「成長力の強い竹はゴルフコースには不向きとされ、日本では伐採するケースが多いんです。しかし、竹の美しさが印象的な廣野GCの景色に感化され、あえて竹を残しました」。この竹林は地中に鉄板を埋め、竹が他の木々の成長を妨げないようにしているそうだ。

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当初、鮎滝CC設計の話が上がったとき、川田氏は「この悪条件でゴルフ場が作れるとは思わなかった (笑)」と当時を振り返る。一般的に、18ホールのコースを作ろうとすると約30万坪は敷地が必要とされているが、この時コース設計に与えられた土地は25万坪。しかも、高低差の激しい土地だったため、地形のままにレイアウトすると、ひどく狭いコースになってしまうことが予想された。川田氏はこの土地にどんな手を加えたのだろうか。
「2番ホールは空中に設計したんですよ。右から左にかけて傾斜している地形なのですが、大量の土を盛ってプレーエリアを作りました」。また、右から左への傾斜をなだらかに設定することで視覚的にもプレー可能なエリアを広く見せる設計を施した。

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この手法はミスにも寛容なレイアウトになる。段差をきつくしてしまうと、「天国(フェアウェイ)か地獄(OB)」というシチュエーションになるが、緩やかな段差を作り、下段のエリアを広めにとることで、ボールを多少左に曲げてしまっても、ショットが打てるわけだ。
左右の傾斜をなだからにした2段フェアウェイは川田氏が得意とする手法で2番ホール以外にもいくつか採用され、他のコースでも見ることができる。
川田氏は別の手法でも敷地の少なさをカバーしている。たとえば15番ホールは距離の短いパー4だが、バンカーの配置法でコースを広く見せた。ティグラウンドからコースを見渡すと、クロスバンカーが4つ点在するが、どれも隣同士には置かれていない。「同じ地点の左右に配置すると、コースが狭く見えてしまいます。ですから左右のバンカーを互い違いに置きました。こうすることで戦略性の高さも生まれます。球筋をイメージし、しっかりプランを立てないとバンカーにつかまってしまいます」。

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川田氏にゴルフ場を設計する上でのモットーは? と尋ねると、「弱きを助け、強きを挫く」という答えが返ってきた。その設計理念は鮎滝CCの随所で感じることができる。7番ホールはなだらかなアップヒルのパー4。飛ばし屋が有利のように感じるが、ティショットで左のバンカー越えを狙うと思わぬ落とし穴があるのだ。左バンカーの向こうにもうひとつ、ティグラウンドから確認できないポットバンカーを配置している。つかまれば1ペナは確実だ。
フェアウェイセンターから右サイドにティショットを置くのが正規の攻略ルート。しかもグリーンは左サイドの前後にバンカーが配置されているため、センターから右狙いで進めばセカンドショットでも2オンを狙いやすくなる。

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他にも14番ホールもポイントだ。距離が短いパー5で飛ばし屋は2オンを狙いたくなる。だが、フェアウェイが途切れているため、単純に飛ばすだけではラフにつかまって2打目でアイアンを持たなければいけなくなる可能性もある。また、ティショットに成功すると花道が広いため、2オンのチャレンジ精神が掻き立てられるが、ここにも罠が。グリーンは奥に向かって傾斜しており、直接グリーンにオンさせるとグリーン奥から大叩きするケースもあるのだ。
「弱きを助け、強きを挫く」以外に川田氏がコース設計で心がけているのが、18ホールを全て違う顔に見せること。その点で難しかったのが9番と18番だったそうだ。「横に並んでいるこの2ホールはどちらもパー5。地形がほぼ同じなので、プレイヤーに異なるイメージを抱かせるために苦労しました」。 実際プレーしてみると、9番は左サイドにドライクリークや池があるホール。18番はグリーン周りのバンカーが印象的なホール。同じ地形に作ったとは想像できないほどガラリと雰囲気が変わっていた。

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18ホールを全て違う顔で見せたいという川田氏だが、実は設計したほとんどのコースに共通した要素も入れ込んでいる。通称「太三山(たいぞうやま)」といわれる小さな山だ。「誰かと連名で設計していないコースには、ほとんどこの山を作っているんですよ」と川田氏。鮎滝CCは9番と18番のグリーンの間に太三山が設置されている。
最後に川田氏はこう語ってくれた。「敷地の狭さに苦労した分、プレイヤーから「『広々としたコースだった』と言われるのが一番うれしいですね」。実際、「コースが広くてのびのびプレーできた」とコメントするゴルファーは多いようだ。さて、あなたの鮎滝CCの印象は?「太三山探し」をしながらプレーを楽しんでもらいたい。

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