「異色の支配人」が目指す、すべての人の高い満足度[カレドニアン・ゴルフクラブ ]

写真:落合隆仁 (グラン)
文:柴 寿之
取材協力:カレドニアン・ゴルフクラブ

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緑の複雑な曲線と白砂のバンカー、池やクリークの水面が絶妙に絡み合って織りなす、造形美と高い戦略性。1990年に開場した、J・マイケル・ポーレット設計のカレドニアン・ゴルフクラブは、日本屈指とも言えるコースレイアウトのすばらしさから、ずっと高い人気を誇ってきた。2000年には国内男子メジャーの日本プロゴルフ選手権も開催。一気にその名は全国区になった。そしていま、もう間もなく開場26周年を迎えようという同クラブの人気は、ここ数年さらに高まりを見せてきている。売り上げも来場者数も右肩上がりで、会員数も増加。実際、訪れたゴルファーやメンバーからも、「前より良くなったね」といった声がよく聞かれるという。仕掛け人は、2011年に入社し、約1年半後には支配人に就任した渋谷康治氏だ。

   カレドニアン・ゴルフクラブ

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渋谷氏がカレドニアン・ゴルフクラブの何を変えたのかということを見ていくには、まず渋谷氏の経歴を少し遡る必要がある。渋谷氏は、長くゴルフ場の仕事に従事してきた人ではない。大学卒業以来、ずっとエンターテインメント業界にいたという、異色の経歴を持つ支配人だ。「まあ、有り体に言うと、“オタクビジネス”ですよ。規模は小さいですけど、メーカーでも問屋でもあり、小売業もやっているという変わった会社。たまたまそんな会社に入ったので、モノを売るということに関しては、一通りやりました。営業もやりましたし、流通もやりましたし、会社のPRやコンテンツのPRに、小売りで店長もやりました。そして、その後も独立して小売りの会社を仲間たちとずっとやっていました」。しかし、「大手との値引き競争に疲れて」、渋谷氏は会社をたたむことを決意。半年ほど就職活動をしていた渋谷氏の琴線に触れたのが、それまでまったく関わったことのないゴルフ場での仕事だった。

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「強力なコンテンツを持っているところで働きたいと思っていたんです。強いオリジナルを持っていたら、値引きに巻き込まれないで商売ができると。そしたら、求人情報サイトから、『ゴルフ場なんてどうですか?』と連絡が来まして。漫画をたくさん読んでいたし、スポーツ観戦も好きなので、ルールやトッププレーヤーの名前くらいは知ってましたけど、もちろんゴルフはやったことがないから、カレドニアンって言われても聞いたことはないわけです。でも、ネットを見てみたら、コースはすごくいいと書いてある。これは強力なコンテンツなんだろうなと思って、受けてみたらあっさり受かっちゃったんです」。こうして2011年初頭、副支配人という立場で入社し、東京の本社と千葉のコースを行き来して、ゴルフ場運営を一から学ぶ毎日が始まった。

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渋谷氏にとって、入社してからの見るものすべてが新しかった。だが、それは、“オタクビジネス”から“ゴルフ場ビジネス”へと、業界自体が変わったことが直接的な原因ではなかった。どちらも言ってしまえば、同じくお客様相手の仕事。その道のプロである渋谷氏にとって、「ゴルフ場の常識」は相当、奇異に映った。「ゴルフ場ではよくあることなのかもしれませんが、自分たちの都合がお客様の都合よりも優先されているようなことが、たくさんありました」。たとえば、練習場。「もう使えませんよって、お客様を帰したりするわけです。いまから掃除をするので、と。そんなの、お客様が帰ってから掃除をすればいいじゃないですか」。たとえば、宿泊施設。「毎年、クリスマスぐらいまでは宿泊可能にしていると聞いたんです。でも、年末も泊まりたいという声を実際に聞いていました。だから、なぜ年末まで開けないのか、と尋ねたら、掃除をするパートの人が来ないから、と。全然意味がわからなくて、もう一回言ってもらっていい? みたいな(笑)」。

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入社から半年後、前任者が都合により休職したことで支配人としての役割を務めることになった渋谷氏は、「改革」を始めた。とはいえ、それは渋谷氏にとって、決して「改革」という大げさなものではなく、ごく当たり前のことだったのだが。「結局、サービス業じゃないですか。そんなに難しく考えず、お客様本位でもっと考えようと」。宿泊施設はいま、1月1日前後以外は宿泊可能だ。練習場も、お客様が帰るまで何時まででも開けるようにした。従業員が帰っても、渋谷氏が毎日、夜の9時までいる(それから東京の自宅に戻って、翌朝は7時にコースへ!)ので問題はない。また渋谷氏は、ボールマークを直すことも毎日やった。「コースを覚えないといけないなと思って。毎日、お客様のプレーが終わった後、キャディが直すわけですが、その後、僕とキャディマスターとマスター室のスタッフで全ホール、もう一回行くんです。雨が降ろうが何しようが。むしろ雨のほうが、ボールマークが見えてラッキーです。当時、日本一ボールマークを直した支配人だと思っていますよ」。

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同時に、渋谷氏は従業員に意識改革を促した。「たとえばフロントなら、チェックインや清算。たとえばマスター室ならキャディの配置など。そういったことは仕事じゃないから、と言いました。それは作業だ、と。『あなたたちが考えなければいけないのは、一つ。お客様がどうしたら満足するか。だから作業は最小限の時間に抑え、お客様が喜ぶことを考える時間をつくろう』と」。当然ながら、反発もあった。「長くいればいるほど、前から続けていることを変えるのは嫌がるじゃないですか。『そんなこと、やったことありません』とか。当たり前じゃないですか、初めてやるんですから(笑)。僕のことを嫌う人も」。しかし、そこは渋谷氏も心得ている。「女性のスタッフには、最初のころ、ものすごい勢いでお菓子を買ってきましたよ(笑)。『これ、食べて』と。『ちょっとやってみてよ、ダメだったらやめればいいし、もしダメでも全部僕が悪いんだから、責任は僕がとるからやってみてよ』とか言いながら」。

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人心掌握術はまだある。「入社してしばらくしてわかったのは、このコースキーパーソンは、グリーンキーパーだということ。だから毎日、管理棟に行って、『今日、何をやってるんですか、お仕事教えてください』とか言って、その日の作業から個人的な趣味まで、いろいろな話をしました。キーパーに気持ちよく仕事をしてもらうという意味もありましたし、ウチのキーパーは本当に全部の作業をわかっていて、僕みたいな素人にもわかりやすく説明してくれるから、すごくコース管理のことにも詳しくなりました。こういう機械を使って、こういう作業をやっている、こういう薬剤を使って、とか、それにはこういう効果をもたらしたいという理由がある、というふうに。そして、それをお客様に僕が偉そうに言うわけです。『やっぱり、コース管理にはお金も手間もかかるんですよ、でも、お客様のためにしっかりやっていますよ』と(笑)。啓蒙活動です」。

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15番ホールと16番ホールの間にある、芝の畑、『ナセリ』も、その啓蒙活動の一環だ。「あそこでは人気の5種類の芝を選定して栽培しています。“ナセリ”では、全体が升目状に区切られていますが、横軸が芝の種類で、縦軸では肥料の種類ややり方を変えたり、穴を開けたりして、微妙に違いを出しているんです。どの方法が最適か、ウチのコースの気候に合っているか、などを見ています。お客様が見て、『すごいな、このゴルフ場』となってもらえたらなと思っています。カレドニアンのファンを増やしたいし、メンバーにはよりコースに愛着を持って頂きたいですから」。

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以前は、メディアの取材にもあまりオープンではなかったという。「いまは、大抵はいつでも大丈夫です。当日、『他のコースが天候のためにクローズになったので、取材させてください』と言われても、どうぞ、です。もちろん、メディアに出ることで、予約が劇的に増えるとか、そういったことを期待しているわけではありません。いいコースなので、メディアの人にも知ってもらいたいし、記事を目にしてもらって、メンバーに『ウチのゴルフ場が載っている』と喜んでもらいたい。そして、『きれいだな』とかいうふうに感じてくれて、『一回行ってみたいな』とか思ってくれる人が、1人でも2人でも増えてくれたらOKかなと思っているんです。僕は、カレドニアンは日本一のコースだと思っています。本気で。だからメンバーにもそう思ってもらいたいし、メンバーが、『ほら、俺のコース、最高だろ?』とお客様を連れてきてくれるコース、本当に自信を持って連れてきてくれるコースにしたいんです」。

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アマチュア競技やプロの試合の誘致など、渋谷氏の施策は、ほかにもまだまだある。そして、渋谷氏のコース運営に対する考えは、いま、従業員に深く浸透してきている。「ことあるごとに言ってきましたからね。だいたい2年くらい経ってからでしょうか。わかってくれるスタッフが増えてきたのは。実際、楽しそうに働いてくれているなと、少なくとも僕は思っています。忙しくて損しているような気持ちになるんでしょうけど、お客さんから、前より良くなったねとか、とか言われると、スタッフもみんな喜ぶから、そういう意味でみんな素直で助かっていますけどね。どういうゴルフ場にしたいかといえば、お客様も喜んでくれて、ウチのスタッフも喜んでくれるコース。スタッフがつまらなそうだと、お客様も楽しめないと思いますし。CS(顧客満足度)もES(従業員満足度)も両方上げていきたいです。それがなかなか難しいんですけどね」。

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